管理栄養士になるための勉強をたくさんしている学生の皆さん。この記事は2020年7月に書いているのですが、そろそろ就活が本格化してきますね。
今回の記事では、管理栄養士歴10年になる私が、10年前…就職活動を行うときに知っておきたかった、これを知っていたらもっと上手く就職活動ができたんじゃないか、と思っていることを解説していきます。
栄養管理がしたいなら病院や施設の違いを理解しておこう!
管理栄養士を目指す学生さんがよく言う一言。
第一希望は病院。無理だったら施設かな。
10年前、大学生だった私も、そんな一言を言っていたし、周りでもよく聞きました。今もTwitterなどでよく見ますね。
しかし、「病院」や「施設」というものは、世の中にたくさんあり、社会で担っている役割が全く異なります。その「違い」を理解しておくと、自分の希望にあった職探しができるようになったり、面接で周囲と差をつけることができたりしますので、ぜひ、知っておきましょう。
病院に就職がしたい?急性期?回復期?病院の種類を知ろう
病院は、主に急性期、回復期、慢性期の3つにわけることができます。多くの学生さんが実習で行く大規模な病院は急性期病院であることが多いのですが、世の中には回復期や慢性期の病院もたくさんあります。
求人は回復期や慢性期の病院から出ることも多いので、病院ごとに異なる役割について知っておきましょう。
これを知っておかないと、「その病院に合わない志望動機」を面接で述べてしまうかもしれませんよ。
病気を治すためにある急性期
急性期という言葉は、病気になってすぐの状態、をさす言葉です。あなたの近所にある「救急車がとまるような病院」や「大学病院」は急性期病院と思っておいて良いでしょう。
患者さんの病気の症状が急激にあらわれる時期で、身体的にも精神的にもしんどい思いをしている方の治療するところです。
ひとつ間違えると命を落としてしまうかもしれないような病気と日々戦っている急性期病院の役割は、「患者さんの命を守ること」。
患者さんの病状は、一日、一時間、と刻々と変わっているのが急性期病院。後で紹介する回復期や慢性期よりも「素早い判断」「迅速な対応」が求められます。また、当然、患者さんは小児やら大人、高齢者、妊婦、と様々であるため「深い専門性」も「幅広い知識」も必要です。
リハビリを行う回復期
最近増えている「リハビリテーション病院」。リハビリテーション病院は主に回復期を扱う病院です。
回復期は、その名前の通り「回復を目指す」場所です。
急性期病院にて病気の治療を終えたが、後遺症があったり、昨日が回復していなかったりして、日常生活に戻ることが難しい人たちが「社会に戻る」ことを支援することが主な役割で、対象者は高齢者であることが多いです。
急性期病院を退院してすぐの患者さんには低栄養の人も多いので、管理栄養士が活躍できるシーンも多いです。リハビリをしているときは運動量によって消費エネルギーが異なったり、そもそも低栄養でリハビリをしてもなかなか機能が回復しなかったり…。
患者さんの社会復帰を栄養面で支えるお仕事ができる職場が回復期です。
長期的な療養を行う慢性期
慢性期は「長期的な療養」を行う場所です。病状は安定しているが、医療的なケアがなければ生活をすることができない患者さんが入院しているところです。
回復期も患者さんは高齢者であることが多いですが、慢性期はより一層高齢の方が多いです。
専門的な治療を行う場所ではありませんが、患者さんも「治療を行うため」に入院しているよりは「入院が生活」である側面も大きい病院となるため、栄養管理を行うことはもちろん、ほかの形態の病院よりも「美味しい給食」が期待される部分もあります。
高齢者施設といっても特養と老健は違う
高齢者施設では、主に「特別養護老人ホーム」と「介護老人保健施設」で管理栄養士が必要とされています。これらで働く管理栄養士は「栄養ケアマネジメント」を行って栄養管理をします。
特別養護老人ホームは、いわゆる「終の棲家」。介護度が重く(要介護3~5)家族が家でお世話することができない利用者様や、一人で生活することができない利用者様が、その命が終わるまで過ごされる施設です。利用者様の看取りまでケアをさせていただくことになります。
介護老人保健施設は、回復期の病院に近い側面があり、「介護保険サービスを使って在宅復帰が難しい高齢者の在宅復帰をサポートする」施設です。(これが理想的な位置づけですが、中にはほぼ特養のようになっている老人保健施設もあります。)老健はその施設によって在宅復帰をどんどんしてもらいたい施設と、見取りまで利用者様のケアを行う施設によって、利用者様のADL(日常生活動作)のレベルが全く異なります。
どちらの施設も病院ではありません。病院ほどの迅速な判断や深い専門性は求められませんが、「治療最優先」施設ではないため「家族や本人の希望する生活と栄養管理の両立」を行うため、幅広い知識や対応力が求めっれます。
サ高住やケアハウスなどの業態では、「管理栄養士が栄養管理を行う」ことに対する介護保険上の決まりがないので、「栄養士が給食だけ出していればOK」。栄養ケアマネジメントをバリバリやることはないでしょう。
「直営給食」か「委託給食」かで業務は全く異なる!
これまでは、病院や施設の種別についてお話しました。対象者が業態が異なれば業務が異なるので、施設の種別を知っておく必要がありますが、それと同じくらい「厨房を自前でやっているか業者が入っているか」によって新人栄養士の仕事は大きくことなります。
一般的に直営とは「施設や病院に雇われている栄養士」を指すことが多いですが、本来直営とは「自分の病院や施設が給食を運営している」ことを指します。
直営給食を行っている病院や施設に就職した新人栄養士の仕事は「給食管理」から始まります。が、厨房を委託しているところに就職した場合新人でも「栄養管理」のみが仕事となります。
栄養管理だけをしたい場合は厨房を委託しているところに就職すると良いでしょう。ただし、給食管理は体力も必要な業務であり、年齢を重ねてからは結構重労働だったりします…。また、なんだかんだ給食は栄養士の基礎。この基礎を身に付けずに栄養管理から始めることは、デメリットとも言えます。
リハビリスタッフは「リハ栄養」を勉強していたり、嚥下はSTが強かったり、医師や看護師も栄養療法の知識は深かったりしますが、「給食管理」って栄養士にしかできないことですからね。
給食会社は厨房業務を「受託」している「業者」であることを知る
病院や施設以外の就職先としては「給食会社」「委託」があります。給食会社は病院や施設から厨房の運営を「受託」しており(委託されており)、給食を管理します。
就職先の間口が広く、早めに採用試験が始まるため、多くの学生さんは説明会や採用試験を受けるのではないでしょうか。
給食会社へ就職を検討する学生さんに知っておいてほしいこと。それは「給食会社に就職するということは、病院や施設の職員になるわけではない」ということであり「業者」になるということ。
給食会社は「お客さま(施設や病院)の厨房をかりて」「商い」を行う会社なので、管理栄養士として就職するというよりは、業者さんとして厨房で仕事をします。
ここを勘違いしてしまうと、就職してからのギャップで、少しつらい思いをしてしまうかもしれませんので、この点は抑えておきましょう。
給食会社の仕事は「給食管理」であり管理栄養士免許は必要ない
給食会社に就職する際に「管理栄養士免許は必要ない」といえます。制度上、給食会社に管理栄養士を置きなさいという規定がないためです。
給食管理は栄養士免許だけでもでき、給食運営の責任者はクライアント側の管理栄養士になるため、委託側に管理栄養士は必要ないのです。
国の基準で「給食管理は委託してもいい」が「栄養管理は委託してはいけない」ことになっているため、栄養士免許だけでも就業できるということ。
勉強のモチベーションを下げてしまうかもしれない説明ですが、仮に国家試験に落ちても内定取り消しにはならない!ということ。病院や施設の内定通知書には「国家試験に受からなければ採用しない」と書かれることもある…。
もちろん、学んだ知識は無駄にはなりませんし、いつか栄養管理を行う仕事をしたい場合に管理栄養士が必要となるため、勉強は続けてくださいね。また、「栄養士だけでなく管理栄養士を配属します」ということは給食会社の「ウリ」としても大切なので、管理栄養士が不必要というわけではありませんよ!
一緒の職場で働いていても「管理栄養士はお客様」
先ほどから「お客様」「クライアント」という言葉を使いましたが、給食会社の栄養士にとって、病院や施設の管理栄養士は同僚でも先輩でもなく「お客様」です。
給食を食べる人のために働く私たちですが、その給食を委託する先を決めるのは病院や施設。そのため、病院や施設の方と喫食者の両方を喜ばせる仕事をしなければなりません。
昨今は人手不足であることから、簡単に給食会社を変更する時代でもありませんが、病院や施設が給食会社のサービスに満足していなければ、「業者は切られてしまう」ことも。
教育体制が整っているところが多いのは最大のメリット
給食会社についての少し悪いイメージを中心に書いてしまいましたが、もちろん、メリットもあります。
・教育体制が整っていて、新人教育を十分にしてもらえる
・新社会人のマナー研修を受けることができる
・いろいろな厨房を見ることができるため、視野が広がる
・配偶者の転勤があっても、退職せず異動できることがある
・子育て中に時短勤務がしやすい
給食会社、特に大手の給食会社では管理栄養士・栄養士が多数在籍しているため、教育体制が整っているところがあります。
管理栄養士は病院や施設に配置されている人数が少ないため、教育を受けられないまま手探りで働く日々…なにをやったらいいか分からない…という新人さんが多い業界です。
そのため、「新人教育が充実している」会社を選べば、給食管理のスペシャリストとしての第一歩を踏み出しやすいのが委託に就職する最大のメリットといえるでしょう。
教育をしたり、大きな現場の責任者になったりすると、「管理栄養士より給料がいい」こともある。委託では30歳くらいで責任者になれたりするけど、大きな病院で若くして責任者にはなかなかなれないから、お給料は委託のほうがいいこともあるみたい。役職手当がつきやすいから、「薄給激務」のイメージも、最近は薄くなりつつあるみたい。働き方改革もすすんだしね。
「枠」にはまった管理栄養士業務以外の仕事ができるかもしれない
給食会社は「企業」です。そのため、「利益になる商いならばなんでもやりたい」もの。
例えば、業界最大手の日清医療食品は、「食卓便」という宅配サービスをしていますし、グリーンハウスは「あすけん」というダイエットアプリを作っています。
病院や施設の管理栄養士はその就業先の規定に合わせた業務を行うため、ある意味枠にはまらないと仕事ができない、という面があります。しかし、「栄養の知識を使った利益になる商い」を生み出せば、それを応援してもらえるかもしれません。
絶対に妥協はしないで!!
こんなタイトルを読んでも…新卒管理栄養士・大学せいは「ん?」と思うでしょう。
でも、覚えておいてください。あなたの「若さ」は価値です。とても価値が高いんです。「絶対に妥協はしない」ようにしてください。
社会にでると、「あなたは何ができますか?」と問われます。しかし、新卒の学生さんは「あなたは何がしたいですか?」と聞いてもらえます。
「未経験者歓迎」の求人には、管理栄養士免許をとったけれどしばらく眠らせておいて、管理栄養士として働きたいと思った社会人、厨房業務をマスターしたから栄養管理のステップに進みたいと思った現役管理栄養士、栄養士歴10年で管理栄養士に受かった管理栄養士、など、新卒のアナタ以外の人もたくさん応募をしてきます。
「未経験者歓迎」とうたっている求人であっても、今あげたような社会人歴がある人は「あなたは何ができますか?」と聞かれるのです。
しかし、新卒のアナタはどうでしょうか?
社会に出て何かしたことがないのは当然。社会人としてのマナーが身についていなくても当たり前。知識はたくさん学んでいなければならないでしょうが、「あなたは何がしたいですか?」を聞いてもらえる立場です。
そして、若いアナタの学んだ最新の知識が欲しい、これから組織を発展させていくにあたり、長く活躍してくれる人を雇いたい、そんな組織はたくさんあります。
自分が納得できる職場が見つかるまで、探しましょう。間違っても、「焦って内定をもらった」ところに「妥協で就職」なんてしてはいけません。
内定辞退は悪いことじゃない。給食会社は滑り止めでもいい。
管理栄養士の就職活動は、まず、給食会社の就活が「一番早い時期」にきます。病院や施設は空きが出たタイミングで募集をかけるので、今すぐ来てくれない人員のための席はありませんが、給食会社は一般企業と同じく「会社」なので、新卒採用の枠がある程度決まっています。
さて、先輩たちの中には「給食会社に内定をもらったけれど、第一希望の病院から内定がもらえたから辞退」してきた人が複数人います。
企業はそういった事例をたくさん経験していますから「内定辞退がでない」という前提で採用活動を行っていません。
よって、給食会社は、自分たちが滑り止めにされている、という意識を当然持っています。
本当は病院に就職したいけど、委託から内定をもらっているから、断りずらい。
内定辞退なんて栄養士以外の業界でもありふれていること。自分が一番いきたい職場に就職を決めましょう。生活があるから「滑り止め」を持っておくことは悪いことではありません!滑り止めを持っておけば「病院」というだけで評判の悪いかもしれないところに焦って飛びつかなくても大丈夫だしね。
学校側は「内定を辞退するな」というかもしれません。でも、「学校には学校の評判などの事情がある」からそういっているだけかもしれませんよ。
一時的に気まずい思いをするかもしれませんが、内定辞退をしてでも、自分が納得できるスタートを切りましょう。
最後に
今回は新卒管理栄養士が就職活動を行う上で知っておいてほしいことを書きました。
私は委託から栄養士のキャリアをスタートさせました。今思えば当たり前だけれど「同じ管理栄養士なのに扱いが違う」というギャップにとても驚いたと同時に、働き方改革なんて言葉がない時代のブラック企業だったので、それはそれはつらくて…。
病院や施設の違いも分からなかったから、あんまり志望動機も上手く書けなくて苦労した…。
これから就職活動を行う管理栄養士の皆さんは、病院や施設の役割の違い、給食会社とは何をしている組織なのかを知識としてつけ、妥協せず最後まで就活をやりきってくださいね。応援しています。
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