高齢者の必要エネルギーの算出はどうすればいい?

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栄養ケアマネジメント

栄養ケアマネジメントをしていれば必須である必要なエネルギー量の算出。みなさんは、どの式を使って計算していますか?

管理栄養士の養成校では、いくつかの式を使って計算する方法を習いますが、式によって全く異なる数値が出てくることがありますよね。

主なエネルギー算出方法

・ハリス・ベネディクト

・25~30(kcal/kg)×現在の体重

・食事摂取基準の基礎代謝基準値

今回の記事では、私がどの方法で計算をしているのかをお話したいと思います。

方法その①:ハリス・ベネディクトの式(Harris-Benedict)

管理栄養士をしていたら知らない人はいないであろうハリスベネディクトの方程式。実際に現場で使用している管理栄養士も多いと思います。

ハリス・ベネディクトの式(Harris-Benedict)

【男性】
基礎代謝量(BEE)=66.47+[13.75×体重(kg)]+[5.0×身長(cm)]-(6.75×年齢)

【女性】

基礎代謝量(BEE)=655.1+[9.56×体重(kg)]+[1.85×身長(cm)]-(4.68×年齢)

ハリス・ベネディクトの式では、基礎代謝量(BEE)を算出した後、BEEに活動係数とストレス係数をかけることで、必要エネルギー量を算出します。

活動係数の値活動の強度
1.0~1.1寝たきり
1.2ベッド上安静
1.3ベッド以外での活動
1.5やや低い生活活動量
1.7一般的な生活活動量
1.9強度の高い運動ををしている人

高齢者施設では、1.1(寝たきり)、1.2(ベッド上安静)、1.3(ベッド以外での活動あり)、1.5(やや低い生活活動量)を使うことが多いです。

施設では、褥瘡がある利用者様以外にはあまり使うことはありませんが、ストレス係数も参考としてまとめておきます。

ストレス係数

手術:1.1(軽度)、1.2(中等度)、1.8(高度)
外傷:1.35(骨折)、1.6(頭部損傷でステロイド使用)
感染症:1.2(軽度)、1.5(中程度)
熱傷:1.5(体表面積の40%)、1.95(体表面積の100%)
がん:1.1~1.3

ハリス・ベネディクトは実際に計算をしてみると疑問が多い

ハリス・ベネディクトの式を使うと、年齢が高くなればなるほど、BEEはとても低い値になります。特に男性の場合はその傾向が顕著です。

試しに、次の利用者様の必要エネルギー量を計算してみましょう。

例題

70歳男性、安静に過ごしておられベッド外出の活動が少しある程度の患者様で、身長が160cm、体重40kg、BMI15.6でやせ型の男性、ストレスはない(褥瘡など無し)

この利用者様の必要エネルギー量を計算すると、次のようになります。

計算結果

BEE=944.2 活動係数1.3  

必要エネルギー量は、1,227kcal

では、この男性と全く同じ身長と体重、活動量で年齢が90歳になるとどうなるか計算してみましょう。

90歳男性の場合

BEE=775.3 活動係数1.3  

必要エネルギー量は、1,007kcal

みなさんは、この数字をみてどう思いますか?

私は、現場で利用者様の栄養ケアを行っていて、こんなにも必要エネルギー量に差があるとは思えません。実際、この2人には同じくらいの栄養量で食事を提供しています。

そもそも、ハリスベネディクトの方程式は100年以上前に海外で作られた式です。現在の日本のような「超高齢者」まで網羅することが前提で作られた式ではないのではないかと考えられます。

方法その②:【30(kcal/kg)×現在の体重】で計算をする

私が実際によく使う式は、【30(kcal/kg)×現在の体重】です。

先ほどモデルケースの男性(70歳男性、安静に過ごしておられベッド外出の活動が少しある程度の患者様で、身長が160cm、体重40kg、BMI15.6)の利用者様の必要エネルギー量は、30×40=1,200kcalとして栄養管理を行います。

また、後者の90歳男性であっても、同じように、30×40=1,200kcalとして栄養管理を行います。

Nさん
Nさん

この利用者様はBMIがやせなので、体重増加の方向で栄養管理をしますから、実際には常食(当施設では1,600kcal)で提供して様子観察ですね…!

必要エネルギー量は初期プランの段階で使用する参考値でしかない

この必要エネルギー量ですが、実際にその人にあった栄養量は異なります。

例えば明らかにCOPDがあって呼吸が大きい利用者様であれば、必要エネルギー量×1.2~1.5倍程度でエネルギー量を調整する必要があるでしょう。

しかし、明らかな疾患がなく、同じような体型、同じような生活レベルで、同じ量の栄養を摂取できていても、痩せていく利用者様もいれば、体重が増加していく利用者様もいます。

必要エネルギー量の算出は、あくまでも参考値でしかありません。

特養や老健は、ひとりの利用者様と長く関わることができる環境なので、毎月の体重測定の結果を確認しながら、個々に合った食事量を調整していくことが必要です。

Nさん
Nさん

それが私たち施設管理栄養士の腕の見せ所でもあります。

さいごに:栄養ケアマネジメントにおける必要エネルギー量の算出方法

栄養ケアマネジメントにおける必要エネルギー量の算出方法は、科学的根拠に基づいていれば、基本的にはどの計算式を使ってもOKです。どれも「間違いではない」でしょう。

私は実務をしている中でハリスの式を使うことに違和感を感じたため、【30(kcal/kg)×現在の体重】の方法を使っています。

どの計算式を活用するとしても、大切なことは「栄養ケアプランを見直す際の利用者様の状態」を確認することです。

Nさん
Nさん

個々の栄養状態に応じた栄養ケアマネジメントとは、個人の状態に合わせた栄養量を設定することですよ。

栄養ケアマネジメントを行う際に「法令根拠に基づいて行うために必要なこと」は別の記事にまとめていますので、合わせて確認しておいてくださいね。

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