認知症高齢者に対する栄養ケアと計画書の書き方・記入例・例文

当サイトではアフィリエイト広告を利用しています。

栄養ケアマネジメント

高齢者施設では、95%以上が認知症という調査結果があるほど、施設での栄養ケアと認知症は切っても切り離せません。今回の記事では、老健で管理栄養士をしている私が、認知症の栄養ケア(主に摂食行動)と栄養ケア計画書の書き方を解説します。

基本的な栄養ケア計画書の書き方は、栄養課題が少ない方をモデルにこちらの記事で解説済みなので、基本はこちらでおさえてから読んでみてくださいね。

栄養ケア計画書の作り方
栄養マネジメント加算算定のために必要な栄養ケア計画書。ひとりで勤務している管理栄養士さんに向けて栄養ケア計画書の作り方を解説します。
栄養ケア計画書、特養や老健で使える記入例
2021年度より、介護施設では(特養や老健では)栄養ケアマネジメントを行うことが、義務のようになりました。やらなければ...

施設における認知症高齢者と症状について

先ほどもお伝えした通り、高齢者施設では、95%以上が認知症という調査結果があります。そのため、認知症への理解なしに栄養ケア計画は作成できない…というのが現状です。

認知症には、4大認知症(アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)がありますが、栄養ケア計画を立てるときはどの認知症かというよりも、どの症状があるか、という側面からケアを行うほうが、上手くいきやすいと考えています。

まず、認知症高齢者に対し、ミールラウンドを行うと見えてくる症状は主に次のようなものがあります。

傾眠、失認、失行、興奮・大声、暴言・暴力、妄想、盗食、異食、早食い・丸飲み・徘徊

このような認知症高齢者の食事中の症状は、食事量や体重の減少につながるだけでなく、自力摂取が困難、誤嚥性に肺炎などの原因となります。そして、在宅であれば介護者の負担を増やしたり、施設でも規定の時間に食事介助が終わらないという課題にもなってきます。

介護を行う側の目線では「食事介助が終わらないという課題」も「あえて」業務上の問題として挙げていました。もちろん、これは最優先課題ではありませんが。

給食を提供する時間、下膳する時間(単に業務・労務の問題ではなく大量調理衛生管理マニュアルの2時間ルールを守るのも大切)も施設では守られるルール。また、食事介助の人が増えすぎたら、ひとりひとりにかけられる時間が減ってしまったり、温かいものを温かいうちに介助できなくなったり、たくさんの課題が産み出されてしまいます…。

なので、環境を工夫して自力摂取を促すことは、利用者目線はもちろん、介護を提供する私たちが仕事としてある意味ドライに向き合ったときにも、優先度が高いところだと思います。

認知症高齢者の食事中の症状別対応例と栄養ケア計画書の文章

次に、認知症高齢者の症状別に、対応方法を紹介していきます。栄養ケアの内容は、ほとんどそのまま計画書に書けます。

①傾眠

食事中の傾眠とは、「食事中に眠っている状態」を指します。ミールラウンド時に、ウトウトしている、意識混濁がみられる、閉眼しているなどの様子がみられます。

傾眠に対する栄養ケアとしては、

・覚醒を促すための声掛け
・体に触れて覚醒を促す(肩へのボディータッチなどを指しています)
・薬剤の副作用のようであれば、看護師や医師に報告する
・覚醒している時間帯に食事や栄養補助食品を提供する

などが上げられます。

眠剤や向精神薬を飲んでいなくても、認知症が進行してくると、夜間の不眠や昼夜逆転となる傾向にあります。傾眠が強い利用者に対しては、時間帯別の体調の変化を記録から読み取って、食事を調整していきましょう。

えぬこ
えぬこ

管理栄養士はどうしても日勤帯勤務になりがちなので、日中寝ている方は管理栄養士が直接見られる時間帯には寝ている…でも、夜間は活発、ということもありえます。

食事を夜間帯に提供することは難しいですし、覚醒状態に合わせると食品衛生の観点がネックとなり、給食を食べられない…ということも少なくないでしょう。栄養補助食品を夜間帯に食べてもらう、なども栄養ケアとしては有効なケースもありますよ。

えぬこ
えぬこ

薬剤の副作用のようであれば、看護師や医師に報告するは計画書にそのままは書けませんが(;’∀’)

②食事の失認

食事の失認とは、「食事を認識できない」ことです。ミールラウンドでは、食事であることが分からないような様子、食事同士を混ぜている、食事で遊んでいる、箸やスプーンが使えない、食事介助をしても目線でスプーンを追わないというような症状が観察できます。

失認に対する栄養ケア計画は

・「お食事ですよ」「お昼御飯ですよ」などの声掛けを行う
・一皿ずつ提供して遊び食べを防止する
・職員からの食事介助ではなく、スプーンを持たせて手を動かして食べてもらう
・食器の色を変更する

などがあります。

失認は、視覚機能は損なわれていないのに(目は見えているのに)食事を食事として認識できていないということ。まずは食事を認識してもらえるように声掛けを行うことが一般的な対応です。

また、食器の色を変更すると、食事を食べられるようになることもあります。黒色や小豆色の和食器で、白ご飯との色の違いがはっきり分かる食器にしたときに食べられるようになる方もいらっしゃいます。(視力は低下していなさそうな方だったのに、何故?と、今でも疑問ですが…)

③食事を食べる動作の失行

食事を食べる動作の失行は、運動機能は損なわれていないのに、食器や食具を使えない症状を指します。ミールラウンドでは、手づかみで食べてしまうような症状、物と物の関係性が理解できていない(箸を使ったら食べられるというような)様子を確認できるでしょう。

食事を食べる動作の失行に対する栄養ケアは

・おにぎりにして、手で食べられるよう提供する
・おかずは手づかみしないよう声掛けをする
・食器の使い方を声掛けする

などがあります。

認知症の高齢者は、「行動を否定」されることに怒りや恐怖を感じる方が多い傾向にあります。手づかみ食べを辞めてもらうためには、相手を否定しない工夫、やさしい表情での声掛けなどが必要です。

また、「手づかみでも自力摂取ができている」なら、強制的に食具を使うようにするのではなく、手づかみで食事をしても問題ないと結論付けることも正解の1つではないでしょうか。

手づかみ食べには、病院でよくみる「串刺し食」が一見有効なように見えますが、認知症高齢者の場合ケガのリスクが高いので、辞めておきましょう。

④興奮・大声・暴言・暴力・妄想・拒食

食事中やそれ以外の時間帯でも、興奮・大声・暴言・暴力・妄想などの症状がある高齢者は、食事摂取量が安定しない傾向にあります。拒食単体の症状がある方もいますが、これらの症状と一緒に拒食の症状がある方も多い印象です。食事中の様子では、大声を出したり、暴言や暴力があったり、食事に対してありえない発言(毒が入っているなど)をしたりといった症状が観察できます。

興奮・大声・暴言・暴力・妄想・拒食に対する栄養ケアは

・興奮状態を落ち着けるための声かけを行う
・興奮状態をなだめるために、少し体にふれる
・傾聴する・好きなものを提供する
・食事は安全であると伝える
・好きな方と近い食席にするなど環境を変える
・食欲を刺激する

などがあります。

認知症高齢者では、怒りやすくなったり(易怒性)泣き出したり(感情失禁)といった状態になる方もいます。時間帯別に落ち着く時間帯があれば、そのときに栄養補助食品を提供したり、補食を用意しておいたりしても良いでしょう。

精神状態が安定していないときは、食事に集中できないため、ムセや誤嚥が起こりやすく、注意が必要です。また、食具(特にフォークなど)でケアをする側もされる側も怪我をしない工夫が欠かせません。

⑤盗食、異食

盗食は、他の利用者の食事に手を付けてしまうこと、異食は、食べ物ではないものを口に入れてしまうことを指します。ミールラウンドでは、明らかな症状を確認しづらいので、管理栄養士は介護や看護部門の記録やカンファ、申し送りなどで知ることが多い症状でもあります。

盗食、異食に対する栄養ケアは

・盗食、異食しないよう見守りを行う
・飾り(バランやカップ、天紙など)を提供しない
・果物の皮をむく
・食席の位置を工夫する
・個別のテーブルで食事をする

などが挙げられます。

盗食は、食事形態が違う方のものを食べたときに窒息の危険性が高く、他の利用者とのトラブルにもなりやすいです。また、異食は当然危険性の高い行動です。見守りや配膳の順番、食席の工夫、異食防止のためにできるだけフロアを片付けておくなどの対策をとりましょう。

⑥早食い・丸飲み

早食い・丸飲みでは、口の中にどんどん食べ物を入れていく、咀嚼せずに飲み込んでいるという様子が観察できます。

早食い・丸飲みの対する栄養ケア計画は

・ゆっくり食べるように声掛けを行う
・小さなスプーンで提供する
・安全性を優先し、嚥下調整食を提供する
・歯科受診を推奨する
・少量ずつ提供する

などがあげられます。

認知症高齢者では、食べ物を口に運ぶ行動と、嚥下や咀嚼のタイミングが合わなくなっていることがあります。これらの行動は窒息事故の危険性が高いため、提供する側の工夫が必要です。また、歯科受診で歯を治療したら治るケースもありますので、歯のトラブルと認知機能の低下による行動のようであれば、歯科受診も解決方法の1つになることがあります。

介護施設、とくに介護保険で運営している施設では、ひとりひとりの行動をつきっきりで見守ることが難しい環境も少なくありません。早食いによる誤嚥事故予防のために嚥下食を提供するケースもあります。

⑦徘徊

徘徊は、認知症高齢者が歩き回る状態です。本人にとっては、何か理由があって歩いていることが多くみられます。徘徊に対する栄養ケアは、徘徊をしないよう声掛けを行うのが主流です。

本人にとっては食事どころではなく、歩きたいという思いや衝動が強いため食べることに集中できないようになるのでしょう。

認知症高齢者の栄養ケア計画例

次に、認知症高齢者に行う栄養ケア計画を、計画書のフォーマットに落とし込んだ記入例の例文をいくつか示します。

目標 ケア内容 担当者
食器・食具を使って食事を食べることができる 手づかみしないよう声掛けを行います。食器の使い方を説明します。こぼれない取っ手付きの食器で提供します。 介護士・(作業療法士)・管理栄養士
覚醒している状態で食事を食べることができる 覚醒を促すよう声掛けやボディータッチを行います。栄養補助食品を用意し、食事時間帯以外で覚醒しているときに食べられるようにします。 介護士/管理栄養士
遊び食べを予防し、食事を楽しく食べられる 食事を認識できるよう声掛けを行います。食器の色を変えて、食材が分かりやすいようにします。スプーンを持たせる介助をして、自分で食べる動作を促します。箸やスプーンを使えるようリハビリテーションを行います(リハビリ計画書参照) 介護士・(作業療法士)・管理栄養士

介護保険施設における栄養ケア計画は、フォーマットが決まっています。フォーマットの詳細・全体像はこちらを参考にしてください。

栄養ケア計画書、特養や老健で使える記入例

他職種連携×認知症高齢者に対する栄養ケア

認知症高齢者に対する栄養ケアでは、介護士、看護師と連携して対策を立てることが多いです。老健の場合はリハビリの専門職が配置されていますので、担当のリハビリスタッフにも相談しながら、食事の環境を作っています。

特に、失認や失効の方の食環境整備には、作業療法士との連携が欠かせません。

食事環境をミールラウンドでよく見るのは管理栄養士であることが多いので、私も持てる知識で食具の選定をしたり、介護職と話し合って環境設定をすることがありますが、やっぱり専門のOTさんには叶いません。

認知症高齢者の栄養ケアは、とにかくPDCAサイクルをまわせ!

認知症高齢者の栄養ケアを行う際に、理論に基づいた対応も重要ですが、行き詰ったらとにかくやってみるようにしましょう。私も認知症高齢者に栄養ケアを提供している立場ですが、なんとなく試してみたら上手くいった、というケースも少なくありません。

もちろん、理論に基づいていないといけない部分に対してアドバイスしているのではなく、こういうケースのことを想定しています。

・食器を白から茶色に変えたけどだめ、赤色に変えたら自力で食べられた。
・食席をいろいろ変えたけどだめ、一人用テーブルで窓際でなら自力で食べられた。
・甘いジュース、スープ、ゼリー、バニラアイスなどいろいろ試したけどだめ、なぜかいちごアイス味の補助食品は食べられた。

認知症で、意向の聞き取りができない方には、とにかく色々試してみるしかない。そんなケースも多いのです。

栄養ケアマネジメント初心者さんは、本でも勉強しておこう

栄養ケアマネジメント初心者さんは、本でもしっかり勉強しておきましょう。


このブログで何度も紹介している書籍なのですが、「栄養ケアマネジメントを行うために必要な知識」を「加算の仕組みを交えながら」詳しく解説している本はこれ以外にありません。
えぬこ
えぬこ

この本でも、認知症×栄養ケアマネジメントについて触れられています。ただ、書籍は限られたスペースなのもあり、それに補足したい意図もあってブログを書いた次第です。

さいごに

管理栄養士が作成する栄養ケア計画書は、食事形態や栄養量、病態に合わせた食事の内容から、食事中の様子やケアの方法まで食事に関することを網羅しておくべき書類です。

高齢者施設では、非常に多くの方が認知症です。仮に病名はついていなくても認知機能の低下が確認できる(HDS-Rなど)方がほとんどでしょう。

管理栄養士は、良質な栄養ケアの提供と、分かりやすい書類作成のために、認知機能と栄養ケアについてはしっかり学習しておく必要があります。

私は老健管理栄養士なので、看護師や理学療法士、作業療法士といったリハビリ専門職に助けれらながら学んできました。ぜひ、みなさんの参考になれば嬉しいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました