療養食加算とは、管理栄養士が栄養管理をしていて、療養食を利用者様に提供した場合に算定できる加算です。
栄養マネジメント加算は、「栄養ケアをしたこと」に対する報酬という意味合いが強く、療養食加算は「療養のために食事に対して配慮したこと」という認識をしておくと良いでしょう。
最近はほとんど施設に管理栄養士が配置されていますが、栄養士の配置だけでもとれる唯一の加算です
療養食加算を算定できる条件と頂ける金額
療養食加算は、1回の食事に対して8単位を算定することができます。つまり、1食約80円の加算となり、1日あたり240円程度の利益が施設に入ります。
算定要件は、以下の通りです。
イ食事の提供が管理栄養士又は栄養士によって管理されていること。
ロ入所者の年齢、心身の状況によって適切な栄養量及び内容の 食事の提供が行われていること。
ハ食事の提供が、別に厚生労働大臣が定める基準に適合する指定介護老人福祉施設において行われていること。
昔は1食でも食べたら1日24単位が算定できました。しかし、今は昼ごはんを食べた後に対処された場合、朝と昼の2回分、16単位しか算定できません。
ちなみに、おやつは食事としてカウントしませんよ。
療養食加算算定のために必要な書類
療養食加算のために必要な書類は、次の3つです。
約束食事箋(食事箋規約)
約束食事箋、または食事箋規約という、施設内の栄養基準を定めた書類が必要です。
この「規約」には施設で献立を作成するための基準を全て記入しておきます。
以下の項目は入れておくようにしましょう。
- 療養食の種類
- 療養食・普通食・全粥食・嚥下食などの献立作成基準となる栄養価
- 食事形態の種類
- 食料構成表(なくてOKの自治体もある)
- 施設で提供できる補助食品
長浜市立湖北病院の食事箋規約のリンクを貼っておきます。
施設ではこんなにたくさんの食種を揃えておく必要はないかもしれませんが、これくらいの内容は網羅しておきたいところです。
予定・実施献立表
療養食加算の算定のためには、予定および実施献立表が必要です。
これは、「食事箋規約にもとづいて」作成した「療養食の献立(予定献立)」を「正しく提供しました(実施献立表)」、ということを証明するための書類です。
具体的に食品を何グラム使用したかが分かる状態の、実際に作業をしているときに厨房に張り出している献立を「予定実施献立」という1つの書類として扱ってもOKです。
また、栄養価は、毎日、日ごとに計算したものを用意しておかなければなりません。
私はA4を1枚で栄養価が表示できる給与栄養量表という表を作っています。が、毎日の実施献立に1日の栄養量を記載することができれば、給与栄養量表を作成する必要はありません。
ただし、A4用紙1枚で栄養価が分かるようにしておく方が、委託さんからの提出書類が見やすいうえに、実地指導に来る監査員の方も栄養量を把握しやすいと思いますので、私は給与栄養量表を全ての食種に対して給与栄養量表を作成しています。
病名が記入された食事箋
食事箋はすべての利用者様に対して発行されている書類ですが、療養食加算を算定する場合は、「病名」と「食種」の指示、そして医師の指示である証明(ハンコでいい)が必要です。
例えば、糖尿病の既往歴がある方に、糖尿病食1400kcalを提供していて、主病名が大腿骨骨折であった場合でも、医師が糖尿病食を提供するよう指示していれば、療養食加算を算定しても問題ありません。
しかし、その場合、病名に「大腿骨骨折」だけが記載してあった場合、実地指導で指摘されます。糖尿病食を出している理由は、「糖尿病だから」です。そのため、食事箋には、主な病名以外の、その療養食を提供することになった理由である病名を記載しておく必要があります。
療養食加算が算定できる食事の種類
次に、療養食加算を算定できる食事の種類について説明します。
糖尿病食
糖尿病食は、先ほど説明した通りの書類があれば算定できます。
糖尿病食1200kcalでも1400kcalでも1600kcalでもかまいません。
「糖尿病に配慮した食事が、上記の書類をそろえたうえで提供されていれば」算定することができます。
食事箋規約を作成する際に、どのエネルギー量の糖尿病食を提供できるようにするかは、施設の管理栄養士や施設長(医師)が決めて良いです。
また、糖尿病食1200kcalだからといって、毎日1200kcalピッタリでなくても、実地指導で指摘を受けるケースはほとんどないでしょう。
誤差の許容範囲は実地指導にくる指導員の塩梅によることが多いです。
私は毎日の誤差80kcal以内に抑えるようにしています。理由は、「80kcal変わると1単位変わってしまう」からです。
腎臓病食・心臓病食
心臓病食や腎臓病食は、明確に守らないといけない基準があります。
それは、毎日の食事に対する塩分が6g未満であること。
1日でも6.0gの日があればアウトです。実地指導で指摘、および加算返戻となることもありえます。「6.0g未満」なので「5.9g以下」でなければなりません。
エネルギーの設定や、たんぱく質に対する制限は特に決まっていません。施設で食事箋規約を作成する際に、自由に基準を決めてよいことになっています。
塩分6.0g未満の療養食を提供していても病名が「高血圧」だけでは加算算定ができないので要注意。心疾患または腎疾患に対してしか算定することはできません。
なお、平成21年までは、塩分7.0g未満が基準でした。今は6.0g未満となっているので、就職先が古い施設であったり、管理栄養士不在の期間が長すぎて栄養管理系の加算を算定せずに経営してきた施設であったりする場合は、注意してください。
肝臓病食
肝臓病食は、肝庇護食、肝炎食、肝硬変食、閉鎖性黄疸食などを言います。
こちらも、糖尿病食と同じく栄養基準は決められていません。
肝臓疾患なので、低脂肪食や高たんぱく(十分なたんぱく質がとれる食種)を食事箋規約内で作成し、書類を調えておけば算定可能です。
胃潰瘍食
胃潰瘍食は、その名前の通り胃潰瘍食に対して配慮された食事を提供した場合に算定できます。十二指腸潰瘍や、クローン病、潰瘍性大腸炎によって腸管の機能が低下している入所者に対して、疾患に配慮した食事を提供した場合でも算定可能です。
貧血食
貧血食は、「提供する食事・栄養価に対する規定」はありませんが、患者が「鉄欠乏性の貧血でありヘモグロビンが10g/dL以下でなければ算定できません。
私は入所時にヘモグロビンが10g/dL以下で、鉄欠乏性貧血の病名がついていたら算定しています。入所後、栄養ケア計画の見直しごとに医師へ採血の必要性を確認し、たいてい指示が出ますので、採血をしてもらっています。
膵臓病食
膵臓病食も、食事箋規約に決めておかなければいけない栄養量は指示されていません。
病名に膵臓の疾患があり、先に説明した書類が揃っていれば、算定可能です。
脂質異常症食・高度肥満に対する食事療法
脂質異常食も高度肥満食も、「提供する食事・栄養価に対する規定」はありません。
ただし、脂質異常症食はLDLが140mg/dL以上で、HDLが40mg/dL未満または中性脂肪が150mg/dL以上である場合に算定できます。
また、高度肥満に対しる食事療法は、BMIが35以上である場合に算定できます。
通風食
通風食も、食事箋規約で決めておかなければならない栄養量は指示されていません。
通風食を準備し、通風の病名がある方に提供すれば算定可能です。
特別な場合の検査食
特別な場合の検査食は、施設ではあまり提供する機会はありませんが、大腸エックス線検査や大腸内視鏡検査のために、残渣の少ない食事を提供した場合に算定します。
介護施設の場合は、糖尿と減塩、+αくらいの施設も多い
介護施設の場合、病院のように病状が不安定な方を受け入れるケースは少ないため、規定にある食事の種類を全て用意している施設のほうが少ないのではないでしょうか。
私の施設では、糖尿病食と減塩(腎臓病食、心臓病食)に対応しています。
腎臓病食は食事箋規約を作っておらず、主菜半量、アガロリー付加、生野菜生果物禁止、などの個別対応を行っています。ただし、減塩していることから加算は算定可能。
脂質制限が必要な方に対しては、揚げ物禁のような個別対応を行い、この場合は食事箋規約がないため、加算を算定せずに処理しています。栄養量の計算は栄養ケアを行う中で、適切にできているかの評価は行っていますが、算定要件を満たしていないので算定できません(規約および予定実施献立がないため)
施設である場合はこの程度の管理で対応できるケースが多いため、施設の特色に合わせることをお勧めします。
厨房を委託している場合は、全てには対応できないか…も
給食会社との契約の際に、どこまで対応するのかの取り決めを行う中で、「汁物半量の減塩対応しかしません」というような取り決めがあった場合、療養食加算の算定は難しいでしょう。
理由としては、心臓病食を算定する場合の毎日塩分を6.0g未満にすることが難しいためです。
治療食を行う場合は「献立展開」が必要です。が、「汁物半量の減塩対応しかしません」という契約を施設と給食会社がしてしまっているとすれば、糖尿病食や肝臓病食などは提供できない決まりになってしまっているためです。
こういったケースでは、厨房の栄養士と施設管理栄養士の「療養食を提供したい」「いい栄養ケアがしたい」という意思だけでは、動くことができません。
療養食加算の算定には、給食会社の業務負担が大きくなるという性質があるため、施設と委託の契約がどうなっているかも、加算算定にあたり重要な課題となってきます。
さいごに
療養食加算算定のためには、
①食事箋規約(献立作成のための栄養基準となるもの)
②予定実施献立(栄養価がわかるもの)
③食事箋(医師の指示、病名と食種が明記されたもの)
を揃えておく必要があります。
療養食の規定は、複雑でたくさんの種類がありますが、「全て用意しておくことが必須」というわけではありません。
介護施設には、病院ほどの細かい栄養ケアが必要な利用者も少ないため、必要かどうか、提供できるかどうかを見極めて仕事を行いましょう。
治療食を提供するためには、特殊な食品の費用、現場の人手、委託側栄養士の負担なども考えなければならないため、施設の管理栄養士としては考えなければならないことも多いです。
また、医師が「うちの利用者さんにはここまでの栄養管理は必要ない」と判断した場合、提供できる体制が整っていても、提供されない、ということもあります。
私は医師に療養食の提案をすることが多いのですが、先生が「この利用者にそこまでの制限は必要ない」と判断された場合、療養食の提供は行えませんし、必要ないのでしょう…。
もし、今、給食会社が療養食を提供してくれないのであれば、療養食の分は追加でお金を支払う契約にしてもらうよう、施設のトップにかけあうようなことをしてみるとか、施設の管理栄養士として、栄養ケア以外の経営的なところも配慮できると良いですね。
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