医療や介護の現場では、患者さんや利用者さんに対して誤った行為を実施したり、医療ミスにつながりかねない事が発生したりすることを「インシデント」と呼びます。
栄養部門では、誤配膳や遅配などがこれに当たりますね。
今回の記事では、インシデントレポート(事故報告書)の目的や書き方を解説していきます。実際の例も掲載しているので、参考にしてくださいね。
インシデントレポート(事故報告書)の目的
インシデントレポートを書く目的は、次の通りです。
給食を委託している場合は、給食会社からクライアントへの謝罪文になっているケースをよく見ますが、事故報告書は始末書ではありません。
委託さんからの報告書には、「すぐにお持ちして謝罪した」などの文言が入っていることが多いのですが、始末書ではないので謝罪したことは書かなくてもOKだと思っています。
事故の情報共有
事故報告書の存在意義は、事故が起こったことに対する情報共有と記録です。医療・介護・保育などどの分野であっても給食における事故を防ぐことはとでも重要。事故報告書の作成、活用を通して事故情報の共有と事故を予防する意識を持ったチーム作りを行いましょう。
事故を繰り返さない
同じ事故を繰り返さないためには、どうすればよかったか、そのためにどんな対策がとれるのかを考えることが重要です。事故報告書で情報共有するだけでなく、事故につながった原因を可能なかぎり除く、そのための改善策を考えましょう。
しかし、事故の原因が「担当者」にあるケースもあります。いわゆるヒューマンエラーですね。個人のミスであっても、担当者を責めるのではなく、ヒューマンエラーが起こる原因を考えましょう。
トラブルになったとき、適切な対応をしていたことの証明
事故報告書には、私たちを守る意味合いもありますよ。事故報告書で対応を明記しておけば、万が一トラブルになったとき、適切な対応をしていたことの証明にもなります。
私は介護施設で勤務していますが、介護事業所は家族の求めに応じて記録を開示することもあります。開示を求められた際に事故報告書を提示することで、施設の対応に不備がなかったことを証明することにつながりますので、どんな事故でも適切に記録を残しています。
インシデントレポート(事故報告書)の書き方
次に、事故報告書の書き方について解説していきます。
テンプレートを使う
事故報告書は決められたテンプレートを使います。テンプレートは職場で決められているフォーマットがあるでしょう。 ただし、他部署の使っている事故報告書は給食の現場とは合わないこともあります…。
なので、私は給食の事故報告書(栄養科用)を使っていて、個人に影響が出たものに関しては医療・介護事故と同じフォーマットを使っています。
私が使っている事故報告書の項目は次の通りです。
- 報告者
- 事故発生日時
- 内容
- 喫食者への影響
- 対応
- 原因
- 責任の所在
- 今後の対策
- 提出日・責任者検印欄・等
責任の所在は、厨房を委託しているので「給食会社」「施設側管理栄養士」「その他」にチェックを入れる形式にしています。
たとえば、誤配膳も食札の記入ミスなら「施設側管理栄養士」に責任の所在がありますが、そうでないなら「給食会社」に責任がありますよね。業務の線引きを明確にしている方が対策を立てやすいですよ。
5W1Hを意識し時系列でまとめる
事故報告書のは5W1Hを意識し時系列でまとめます。
5W1H明確にすると、状況が伝わる報告書を作れます。
客観的な事実を書く
事故報告書には、客観的な事実を書きましょう。主観や推測を入れるときは「〇〇と考えられる」と記録することで、事実と混ざらず書くことができます。
誰が読んでも伝わる文章で書く
事故報告書は、管理栄養士や調理師だけの書類ではありません。他部署や外部の人が読んでも伝わる文章での記録を心がけましょう。事故対策委員会で他部署の人と再発防止策を考えることもあります。
インシデントレポート(事故報告書)の例文
栄養科さん!お粥のAさんのお膳に、軟飯がのってるわよ!
という電話連絡を受けて代替品を配膳したインシデントに対する例文を書いてみました。
報告書に正解はありませんが、だいたいこのような内容が書けていればOKでしょう。
「原因」は検品担当が見落としてしまった、が最終責任になりがちです。でも、その前に配膳車へセットした人、食器を出した人、食数ボードを書き換えた人、といろいろな担当者がかかわっていますよね。誰がどの段階で間違えたのかを明確にすることで次の事故が防げると思います。
次に、原因を書いたら対策を考えます。対策は原因1つにつき、1つ以上考えておきましょう。
今回であれば栄養士さんが食数ボードを書き間違えているので、ボードの縦計と横計が提供数と一致しているか確認したら防げていた事故かもしれません。また、ボードの書き換え忘れは、どこかにチェック欄(必ず見る帳票があれば)を作って処理していけば誰が見ても作業をしたかどうかが分かります。
差し込みや検品の担当者は、簡単にWチェックにはできない…ですが(人数に余裕がある現場はないと思うので…)目視だけでやっている作業を指差し呼称にすることで、人を増やさなくてもチェック体制を強化できるのではないでしょうか。
介護保険の場合は事故報告書のフォーマットが決まっている
介護保険で運営されている施設では事故報告書のフォーマットが決まっています。
おそらく、多くの施設ではこのフォーマットを使用しているでしょう。 介護士さんが書くインシデントは利用者の転倒転落やずり落ちの発見などが多いので、「利用者個人」のことを書くフォーマットになっているのだろうなと考えています。
栄養科でのインシデントはこのようなフォーマットでは書きにくいものが多いので、私はオリジナルの書面を使っています。が、アレルギー事故のような「利用者がそれを食べるまでの経緯、家族への報告、身体状況、病院受診の有無」の記録が必要な事故については私も施設全体の報告書と栄養科の報告書の2枚を作っています。
少し話題はそれますが…アレルギー事故の報告書は配膳を担当した介護士と様子観察をした看護師が報告書を書く、という場面も経験したことがあります。仮に食事が間違っていたとしても、食物アレルギーのある患者に対し最終配膳をした責任は介護看護部だというのがその時のTOPの考えだったので…。
さいごに
今回は、インシデントレポートの概要や目的を給食現場で働く管理栄養士・栄養士版として解説しました。
インシデントレポートは、病院や介護施設、保育園などどこで働くことになっても、書くことがある書類です。場所によってフォーマットは異なりますが、事故が発生したときに素早く書類が作れると良いですね。
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