管理栄養士は給与が安いとか、ブラックとか、休みが少ないとか。Twitterやブログなどで、検索すると「管理栄養士 辞めたい」とすぐに表示されるキーワード。
これから管理栄養士を目指す人や、管理栄養士としてのキャリアをスタートしたばかりの人にとって、マイナスな情報が、たくさん入ってくる時代になってしまいましたね。しかし、管理栄養士はやりがいのある、素晴らしい仕事でもありますよ。
今日の記事では、現役で高齢者施設管理栄養士をしている私が、その仕事のやりがいについて、お話したいと思います。
老健管理栄養士Nさんの仕事環境
まず、私の仕事のやりがいをお話しする前に、私の仕事環境をお話しします。
1日のタイムスケジュールはこっちで詳しくお話しています。
老健管理栄養士のやりがいその①良くも悪くも「ひとり」で仕事を進められる
私のように厨房を委託している施設管理栄養士は、多くの場合「ひとり配置」です。施設にひとりであることを心細いと感じる人もいるかもしれませんが、ひとりのメリットはとても大きく、ひとりだからこそ感じられるやりがいがあります。
まずは「ひとり」だから感じることができることができる「やりがい」と「メリット」をお話しします。
栄養ケアについては自分の意見が通りやすい
管理栄養士が一人しかいないということは、その施設の「栄養ケアマネジメントを行う管理栄養士は自分だけ」です。管理栄養士は全権を握っているわけではありません。当然医師の指示に従い、多職種連携を行いながら栄養管理を行います。しかし、栄養の専門家は自分だけという環境に身を置けるので、自分のやりたいと思った栄養ケアを実現しやすい環境にいるといえるでしょう。
自分で調べて自分で解決していく能力が身につく
3年に一度改定になる介護報酬、給食会社との交渉など、「施設の栄養に関するケア内容や加算、給食管理」の実務的な責任者を担うためには、「自分で調べて解決する力」が必要です。栄養管理についての知識だけでなく、介護保険の制度について調べたり、給食会社と交渉したり、様々な物事を解決していくための力が身に付きます。逆に、これらが苦手な方にとっては、一人配置であることをデメリットと感じるかもしれませんが、「自分で問題を解決していく」ことにやりがいを感じる人にはピッタリな環境です。
栄養士同士の人間関係に悩まなくてよい
同じ学校の卒業生や自分の周囲、Twitterなどでよくみる「栄養同士の人間関係」トラブル。多職種であれば「専門性の違い」と割り切ることができるかもしれませんが、同じ管理栄養士として勤務する者同士の相性が合わなければ、業務をスムーズに遂行することは難しいでしょう。看護師さんのような大所帯でもないと、「異動で解決」という手段もとれません。管理栄養士同士のトラブルに巻き込まれることなく、「自分の仕事を確実に遂行すること」ができる環境であることはとても恵まれています。
ひとり勤務が不安な管理栄養士さんへのアドバイス「介護保険はガチガチ」です
ひとりで勤務する管理栄養士さんは、たくさんの不安を抱えていると思います。
監査でひっかからないだろうか?適切な栄養ケアを提供できているだろうか?
まず、介護保険制度はやらなければならないことが明確に文章にされているため、良くも悪くも「制度でガチガチに固められている」ものです。自分で勉強をして、栄養ケアマネジメントの質を高めることも必要ですが、この「制度」にのっとって仕事をしておけば、大きなミスをすることは、ほぼありません。
介護報酬の仕組み、加算については、インターネットがあれば、自分で調べて対応していくことができます。書いていないことについては、「根拠を記録に残して」対応していれば、監査、いわゆる実地指導で厳しい指摘をされたり、減算(返戻)を指導されることはほとんどありません。
それでもさらに不安であるならば、上司や事務管理をしている部署の人を通じて「都道府県」の監査や実地指導を行っている部署に質問をしましょう。介護老人保健施設や特別養護老人ホームは、都道府県が最終責任者(施設を指導する立場になる)となるため、施設内で解決できないことは相談にのってもらえば良いでしょう。
老健管理栄養士のやりがいその②利用者様の食生活を自分が支えていると実感できる
管理栄養士の仕事は「栄養管理」と「給食管理」です。給食会社は、クライアントの決めた基準にあわせて給食管理を行います。つまり、ひとり施設管理栄養士は、自分のやりたい給食管理を給食会社にオーダーできる立場ということです。
厨房を委託している場合、給食会社が給食の現場を運営しています。この時、質の悪い給食会社に厨房を委託しないようにしなければなりません。良い給食会社に給食を委託するには、それなりの予算が必要です。
給食会社は、自社の決めごとに沿って仕事をする部分もありますが、受託している施設の意向に合わせて給食を提供します。そのため、その施設の「オーダーする給食」は施設管理栄養士の意向が強く反映されます。「自分がやりたい」と思ったことが形になった瞬間、それで利用者様が喜んでくれたときには、とても強くやりがいを感じます。
昨今、栄養管理をする管理栄養士が「かっこいい」と思われやすく、栄養管理をしたくて管理栄養士を目指す学生さんが多いと思います。多職種(リハビリや看護師、薬剤師など)も「栄養」に関心が高く、栄養指導は業務独占ではないので、食事アドバイスは正しく勉強をすれば管理栄養士でなくても行えます。しかし、施設の給食管理は、調理技術と衛生管理、食品と栄養の知識を身に付けた私たちにしかできない専門的な業務です。良質な給食提供を通して利用者様に喜んでもらえたときは、「この仕事をしていてよかったな」と思います。
老健管理栄養士のやりがいその③役職がなくとも経営的な視点が必要な仕事に携わることができる
給食の委託を行う際に、管理栄養士は経営サイドとも相談しながら委託先の検討をしたり、相見積もりをとったり、「ほかの職種の平社員では関与できないような」経営サイドの打ち合わせに入れることがあります。
施設にとって、給食をどこに委託するかということは、収支計画や利用者へ提供できるサービスに大きな影響を与えるため、慎重に検討しなければならない事項です。
赤字になるような委託先に委託することはできないし、でも質を落としてもいけない。問題があったときに誠実に対応してくれる委託先の選定って結構難しい。大手であれば良いというわけでもないし……。
給食会社に委託する際の条件は、施設にとってとても重要な事項です。何人の人員でどういった厨房管理をしてくれるのか、食材の質、食事形態、朝食は選択食にできるのか、嗜好への対応はどこまでできるのか、災害時の食材供給ルートは確保しているか、栄養補助食品を使用した効率良い栄養摂取ができるような食種を提供してくれるか、療養食はどこまで対応してくれるのか、必ず栄養士を配置してくれるか、施設管理栄養士は栄養管理に集中することができる環境に貢献してくれるか、ここには書ききれないほどです。
給食会社との契約を結ぶ際に、委託を管理することになる施設管理栄養士の意見を反映させておかなければ、「経営サイドだけで検討した契約では、現場の管理栄養士がベストな栄養管理を行うための足枷」になってしまうこともあります。そのため、給食会社の選定には施設管理栄養士の介入が欠かせないのです。
給食会社との契約内容には、施設管理栄養士だけの意見を反映することはありませんが、自施設の経営サイド、給食会社の営業担当の上の人(部長クラスなど)とともに契約締結までの仕事に携わる経験は、「平社員」ではなかなかできるものではありません。
また、給食会社が「不適切なサービス」を行った際には、それは利用者様に直接的に不利益を与えることになります。そのため、「適切に苦情を伝え、場合によっては業者切り替えを含めて相手と交渉をしていく」ような仕事を行うことも。
業者との重要な取引の中心で仕事をすること、経営サイドの仕事をすぐ近くで見ることができること、その人たちに自分の意向を伝え、重要な契約をしていくことに、とてもやりがいを感じます。他職種ではなかなか味わうことができない、ビジネス的な一面にも、施設管理栄養士は携わることがあるのです。
さいごに老健管理栄養士は結構「やりがいのある」仕事です。
厨房を委託している老健施設の管理栄養士は、「体力仕事がほとんどない」上に「大手法人であれば、大きな病院のような給与テーブルで給与が支払われる」し「上記のようなやりがいのある仕事を平社員のときから任せてもらえる立場」であるといえます。
私は、幸運なことに、周りが「管理栄養士としての私」を尊重してくれる環境で仕事をさせていただいています。施設管理栄養士として、「栄養部」という組織があるわけではないので、おそらくずっと平社員です。でも、平社員でありながら、経営の重要な「委託先の選定」に携わることができ、自分の理想の給食提供のパートナー選びに、自分の意見を色濃く反映させることができます。さらに、その結果で利用者様に喜んでもらえる食事提供ができ、栄養ケアで療養生活、リハビリ生活の一部を支え続けられるこの仕事は「やりがいのある仕事」であると思います。
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