令和3年の介護報酬改定より、栄養ケアマネジメントは基本サービスとなりました。簡単に言うと、栄養ケアマネジメントを行うことは、「老健や特養では義務になった」ようなものです。
栄養マネジメント加算の算定率は9割を超えていましたので、特に問題なく業務に取り組めている施設が多いと思いますが、栄養ケアマネジメントを正しく行っていても、「制度に基づいて」やっていなければ、実地指導で指摘をされてしまします。
介護保険施設では、栄養管理を適切に行うことと同じくらい、「介護保険のルールにのっとった書類作成」と「家族様への説明」は重要なことです。
素晴らしい栄養管理をしていても、減算になったら、職場での自分の信頼もなくしてしまいます。管理栄養士は一人配置であることも多いので、自力で「美味しい給食、正しい栄養管理と、正しい書類作成のルール」を身に付けないといけません。
ここでは、LIFE(科学的介護推進加算)や栄養マネジメント強化加算などの内容には触れずに、基本サービスとして行わなければならない入所サービスにおける栄養ケアマネジメント業務について解説します。内容は、旧栄養マネジメント加算の業務とほぼ同じです。
この改定までは栄養マネジメント加算として評価されていた栄養ケアマネジメント。栄養マネジメント加算の算定率は9割を超えていたので、問題なく移行できた施設が多いと思いますが、初めて介護施設で勤務する管理栄養士さんや、管理栄養士ではない職種の方にも理解してもらえるように、解説していきます。
今回の記事では、現役老健管理栄養士が、監査でつっこまれないための栄養マネジメント業務を解説していきます!TwitterID:minipekotaもやっているから、分かりにくいところがあれば直接聞いてもらっても大丈夫です(^^♪
介護保険における栄養ケアマネジメントの位置づけ
栄養ケアマネジメントの目的は、高齢者の栄養・健康状態を把握し、低栄養の予防・改善を図ることです。管理栄養士が中心となって行う介護施設での栄養管理を指します。入所サービスにおいて、栄養ケアマネジメントが義務付けられているのは以下の施設です。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
介護老人保険施設
介護医療院
介護療養型医療施設
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(特別養護老人ホーム)
簡単に言うと、老健・特養・介護保険で運用している病院です。
これらの施設で入所定員が100人以上の施設においては常勤の栄養士・管理栄養士を1名以上配置し、(100人未満の施設においても常勤職員の配置に努めるべきとされています)栄養管理を行わなければなりません。
栄養ケアマネジメントを行わなければどうなるのか?
栄養ケアマネジメントを行わなければ、利用者1名あたり14単位が減算となります。もし、管理栄養士が栄養ケアマネジメントを行わなければ…
これだけの減算になります。これまでは14単位の「加算」(栄養マネジメント加算)でしたが、今後は行わなければ「減算」です。
栄養ケアマネジメント流れ
栄養ケアマネジメント業務の流れは次の通りです。
栄養ケアマネジメントの業務は、介護報酬の解釈の事務処理手順・様式例で詳しく決められています。介護施設であれば、全ての事業者が備えている(であろう)緑本こと介護報酬の解釈に手順が掲載されているので、一度は必ず目を通しておきましょう。
こちらより国が出している要件を確認できますので、こちらは必ず確認してください。
まずは書類の紹介、私は3種類使用しています!
まず初めに、作成する書類を紹介します。厚生労働からはこちらのフォーマットが正式に公表されています。この正式書類は、このままのフォーマットを使用しなさいという意味ではありません。ここで定められている項目が記入されていれば、使いやすいようにアレンジしてOKです。
私は、書類を以下の3つに分けています。
1、栄養ケア計画書
2、栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリング書
3、栄養ケア経過記録(食事内容や提供理由など)
栄養ケア計画書はほとんどそのまま使っていますが、「栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリング書」の「経過記録」の部分は、日々の細かい食事変更の記録を記入しているため、公式書類の通りではスペースが狭すぎることから、3つに分けることにしています。
1.栄養スクリーニング・アセスメントを行い、リスクレベルを決定する
利用者様が入所したら、遅くとも1週間以内に、栄養スクリーニングを行います。「遅くとも1週間」は介護報酬の解釈で明記されていますので、この期限は守ってください。
栄養スクリーニングは、介護保険の制度で決められた書式がありますので、書類(こちら)を埋めれば簡単に行えます。
栄養スクリーニングを行って、中リスクや高リスクに分類されれば、その理由をアセスメントします。このアセスメント結果が、その方の低栄養に対する課題です。
スクリーニングやアセスメントと聞くと難しい専門用語に聞こえますが、BMIが基準値以下であれば「やせている」ことが栄養課題で、褥瘡があれば「褥瘡」が栄養課題です。介護保険で決められた書式を使っていれば、初心者でも簡単に栄養課題を拾えるようになっています。
2.栄養ケア計画書を作成し、本人・家族へ説明する
栄養課題が分かったら、次に計画書を作成します。
基本事項や利用者と家族の意向は、ケアマネジャーが作成するケアプランと同じでも大丈夫です。解決すべき課題と低栄養リスクは、栄養スクリーニング・アセスメントの結果を書きましょう。
長期目標・短期目標は、「現状維持」や「安全に食事を食べる」でも、実地指導上は、おそらく大丈夫です。現状維持や安全に食事を楽しむことも、立派な目標と言えるでしょう。
加算の内容は、指定のフォーマット最後にチェック欄があります。療養食加算や栄養マネジメント強化加算など、栄養・食事に関する加算を算定する場合は、計画書に入れておきましょう。今回の改定より、様式の下の方にチェック欄ができました。
栄養ケアの内容は、次のような内容を具体的に書きます。
ここが、家族に説明するメインの内容になりますから、栄養ケアの内容は細かく書くようにしましょう。
栄養ケア計画書の作成方法は、次のページでも解説しているので、参考にしてください。
栄養ケア計画書に同意とサインは必要なのか
栄養ケアマネジメントが「加算」であったときは、ケアの内容に対する同意、加算を算定することについての同意が必要でした。が、今回の改定より、フォーマットのから「説明と同意日」がなくなり「説明日」のみの記載で良くなっています。
これにより、おそらく説明日を書いておけば実地指導の上では指摘されないとは思いますが、個人的にはあまりお勧めしません。別の記事で詳しく書いているのですが、このあたりは少しややこしいので、事務部門の方針に従うべきです。
なお、サインももらっておく方が安全です。昨今は食事形態の間違いによる誤嚥事故や裁判もあるので…。
栄養ケア計画の説明は管理栄養士の仕事とは限らない
介護報酬の解釈には「介護支援専門員等は、栄養ケア計画書を入所者または家族に分かりやすく説明し、同意を得る」とあります。管理栄養士が栄養ケア計画を説明して、家族の同意をとりなさい、とはされていません。
施設の組織や体制によりますが、管理栄養士が説明しなくても良いことは、あまり知られていないのではないでしょうか。栄養ケア計画は、栄養ケアの内容が施設サービス計画(ケアマネジャーが作るケアプラン)に記載されていたら、省略しても良い書類です。分けているほうが運用しやすい施設では分けていると思いますが、書類を減らす意味では、管理栄養士が説明しなくても問題ない書類でもあるのです。
管理栄養士の仕事としてすることが望ましいとは思いますが…
3.栄養ケアを実地し、モニタリングする
栄養ケアの見直しのタイミング・頻度は細かく決められていますので、ここは必ず抑えておきましょう。使う書類は、栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリングで使用した書式と、必要なときに栄養ケア計画書を作るだけなので、難しくはありません。
モニタリングの頻度は決められている
栄養状態のモニタリングの頻度は、介護報酬の解釈で、細かく決められています。
使う書類は、栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリングの用紙です。業務としては、この頻度に合わせて書類を記入していけば、大きな問題なくモニタリングをしていけるようきできています。
逆に、どれだけ管理栄養士がアセスメントを正確にしていても、この頻度の部分を守れていなければ、実地指導(監査)では指摘されるかもしれません。
中リスクのモニタリング頻度については、介護報酬の解釈には頻度を明記されていません。「低リスク者は3か月、高リスク者は2週間ごと等」が原文です。
私は、中リスク者については、1か月に1回行っており、県の管理栄養士さん(実地指導の指導員)にもそれで問題ない、1か月に1回が理想的でしょうとコメントをいただいているので、それは記録に残しています。
体重は毎月測定
栄養マネジメント加算時代もそうでしたが「介護保険制度における栄養管理において、毎月の体重測定は必須」であることが明記されています。体重は毎月測定し、管理栄養士は必ず確認してください。
栄養ケア計画書の作成は3か月ごとに求められていない
栄養マネジメント加算のときは、栄養ケア計画書は3か月に1回の見直し・作成が必要であると読み取れる内容でしたが、現在は、栄養ケア計画書を3か月に1回作成する必要はありません。必要に応じて計画を変更すべきときに計画書を作り直しましょう。
介護報酬の解釈の原文には、「管理栄養士又は関連職種は、栄養ケア計画の変更が必要となる状況を適宜把握する」と書かれています。
低リスク者であっても、3か月に1回は、栄養スクリーニング・アセスメントを行いますよね。ここで、計画変更の必要性を検討することになる(スクリーニング・アセスメント表に計画変更の必要性を記入するところがあります)ので、モニタリングを行った際に計画変更の必要性を「有」と判断したら、計画書を作り直しましょう。
その他付随してくる業務
管理栄養士が栄養ケアマネジメントを実施していると認められるためには、下記のような業務も必要となります。
サービス担当者会議は、ケアマネジャーが主催し、家族や施設の様々な職種が現状を共有する会議です。管理栄養士は、ここで栄養ケア計画を説明したり、現状を報告したりします。
インシデント・アクシデントは、施設の事故対策委員会などで取り扱いが決められているでしょうから、それに従いましょう。
栄養ケア提供の経過記録は、食事変更や食事についての環境が変わった経緯の記録です。私は、食事箋とは別で食事変更の記録をつけていて、変更した理由も記録しています。
不要になる?給食関連帳票
管理栄養士が栄養ケアマネジメントを行っていれば、次の給食関連帳票は不要となります。
これらは、介護保険では「不要」と明記されているのですが、実は健康増進法では「必要」と判断する実地指導の担当者もいます。
これは私の解釈ですが、栄養ケアマネジメントは入所者様へ行うサービスです。デイサービスやショートステイの利用者様はこの枠には入っていません。だから必要なんでしょうね…。私は、これらの書類は不要として業務をしていましたが、実地指導において保健所の管理栄養士さんから「デイの嗜好調査はしてください、検食簿は食事の質の確保のために、行っておくことが望ましいです」と指導されてしまいました…。
栄養ケアマネジメントの実務として「私が」追加している内容
上記の手順で説明した1~3は、最低限すべての施設で行うべき内容です。
そこに私は、「入所前情報で仮の栄養スクリーニングと仮の栄養ケア計画書を作る」という業務を行っています。目的は「開始時の食事内容について家族の同意とサインをもらう」ことにあります。
本来、入所時の栄養スクリーニング・アセスメントは1週間以内であれば良いです。栄養マネジメント加算時代は、入所当日から加算を算定するために、入所日に計画書を作る必要性が(私の施設では)ありました。しかし、現在は入所当日に栄養ケア計画書ができていなくても、減算になることはありません。
私の施設では栄養マネジメント加算を算定していたので、「0」の業務は加算のために行っていたのですが、現在も欠かさず行っています。先に述べた通り、目的は「開始時の食事内容について家族の同意とサインをもらう」ことにあります。
例えば「アレルギーなし、米飯普通食(朝食パン)」と事前情報を得ていた方が実はアレルギーで、アナフィラキシーショックの事故を起こした、パンで窒息事故を起こした、となると非常に恐ろしいですよね。アレルギーや食事形態について、家族のサインをもらっておくことを重要だと考えているため、加算の制度がなくなっても、業務としては残しています。
1冊は書籍を持っておくと、勉強にもなる!
上記にまとめた通りのことを実践しておけば、おそらく実地指導で返戻になるほど厳しい指導を受けることはないでしょう。
ただし、学校や国家試験で身に付けた知識と制度を知るだけでは、いい栄養ケアを行うことは難しいです。
そのため、書籍でも栄養ケアマネジメントについての知識をつけておくと良いでしょう。
私のおすすめは、こちらの本です。
栄養ケアマネジメントの書籍の多くは、「栄養ケアの中身」にフォーカスしすぎていて、あまり制度と絡めて栄養ケアについて解説してくれる本がありません。
が、こちらの書籍は、栄養ケアマネジメントの事例も、栄養マネジメントの制度についても満遍なく紹介されているため、新米施設管理栄養士にさんには非常に役立つ書籍でしょう。
正直、この書籍が1冊あれば、介護施設における栄養ケアマネジメント業務について困ることはないのではないか?と思うくらいの良書です。栄養ケアマネジメントの流れはもちろん、栄養補助食品は施設負担?家族負担?なんて、踏み込んだ内容についても書かれています。
ぜひ、1冊持っておきましょう!
最後に
介護施設における栄養ケアマネジメント業務についてまとめました。
今回は私がやっている業務をまとめましたが、国の要件こちらは必ず確認してください。老健協会のサイトでも良いでしょう。
栄養ケアマネジメント業務を行うときは
の3点は管理栄養士の責任としてしっかり行っていきましょう。
分かりにくい部分とかもあると思いますので、TwitterでDMいただければ、分かる範囲でお答えします。Twitterでは、管理栄養士さんとたくさん絡みたいと思っていますので、フォローお待ちしています。
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