管理栄養士、栄養士をしていると、だれもが一度は言われたことがあるであろう
栄養士さんって、給食作ってる人だよね!
という一言。
管理栄養士として仕事をしていると、食事や給食に全く携わらないという職種は少ないのですが、一言で給食に携わるといっても、その役目は職種によって全く異なります。さらに、管理栄養士になると給食業務だけでなく、栄養管理も行います。
今回の記事では、「管理栄養士」「栄養士」「調理師」の違いを、法令的な位置づけや現場目線で説明していきます。
管理栄養士を目指している学生さん、はもちろん、施設の先生や事務長さん、看護師さんにも、ぜひ広く知ってもらえると嬉しいです。
栄養士は給食管理の専門家
栄養士は、「栄養を考えた食事」を検討する専門家です。給食は、安全であること、栄養の過不足がないこと、美味しいことのすべてを網羅していることが理想で、その設計をする人が「栄養士」です。そして、その設計を「給食管理」といいます。
栄養士は、この「給食管理」の専門家です。
ネットでは「栄養のスペシャリストです」とか「食生活にアドバイスをする人です」とか書かれていることも多いですが、栄養士の仕事は給食管理ですよ。給食管理!
栄養士免許の法的な位置づけ
栄養士は名称独占資格です。名称独占資格とは、この資格をもっている人以外は名乗ってはいけませんよ、ということが法令で定められています。根拠法令は栄養士法。
食生活アドバイザーや野菜ソムリエは、その協会が認定している名称ですが、国や都道府県が関与している資格ではありません。つまり、民間資格。
ただし、業務独占資格、例えば医師。医師は、「医師でないとしてはいけないこと」、その名の通り業務が独占されているものがあります。つまり、業務独占資格ほどの強みはないという面もあります。
栄養士さんはどこで働くの?
健康増進法という法律で「継続的に1回100食以上または1日250食以上提供する給食施設」には栄養士を配置する努力義務がかされています。努力義務なので、「絶対栄養士がいないとだめ」ということではなく「できる限り配置してね」ということ。
ただし、実際には栄養士をおいている事業所が多いでしょう。病院や老人ホーム、保育園などは、健康増進法とは別の運営基準で栄養士を配置する規定があるためです。
簡単に説明すると「給食を提供している現場は栄養士がいないといけないよ」という規定が、いろいろな施設を運営する規定として盛り込まれているんです。
つまり、栄養士の職場は、給食提供を行っている全ての施設、ということです。
栄養士の仕事は給食管理
先ほども少し触れた通り、栄養士の仕事は給食管理です。給食を提供する流れは以下の通り。
①給食を作るための栄養量の設定をする
②献立を作成する
③発注を行う
④材料の仕入れ・検品を行う
⑤実際に調理を行う
⑥給食を提供する
⑦食器の洗浄をする
そして、この給食提供を安全に行うためには、そこで働く人の管理、お金の管理、付随する書類などがたくさんあり、それら全てを管理することを給食管理といいます。
これが、栄養士の業務です。
管理栄養士は給食管理も栄養管理もできるスペシャリスト
管理栄養士は、栄養士の上位資格なので、栄養士免許だけはできない大規模な給食施設の給食管理や、栄養管理業務ができます。
実際に患者さんをみて、その人に必要な栄養量を計算したり、食生活の指導を行う仕事は、管理栄養士の仕事です。栄養士も管理栄養士も名称独占資格なので、栄養士がこれらを行っても違法ではありませんが、基本的には管理栄養士にしかチャンスがまわってこない仕事だと認識していただいて問題ないでしょう。
管理栄養士免許でできること
管理栄養士は栄養士と同じ名称独占資格です。配置も努力義務。しかし、栄養士だけでは管理できない大規模給食施設には管理栄養士の設置が義務付けられていたり、高度な栄養の知識を使った診療チームの一員になれたり、在宅で過ごす高齢者の自宅に訪問して栄養の指導を行ったりすることができます。
一番の大きな違いは「栄養指導」や「栄養管理」を病院や高齢者施設で行った場合、保険請求といって病院や施設が売り上げをあげることができること。
いくらベテランの栄養士がそのような仕事を行っても、病院や施設の売り上げにならないのであれば、それは完全なボランティアになってしまいます…。
これを言うと頑張っている現役栄養士さんに怒られそうなのですが、車の免許が管理栄養士、原付の免許が栄養士(車の免許をとったら原付も乗れるよね!管理栄養士とったら栄養管理も給食管理もできるよ!)みたいな…。
栄養管理の仕事は非常に幅広い!
管理栄養士は、病院に入院している患者や高齢者施設を利用する利用者に対し栄養管理を行います。
病院であれば、病院に入院している患者全員の栄養状態が問題ないかチェックをしたり、NSTという栄養サポートチームの一員として特に栄養状態が悪い患者の高度な栄養管理を行います。生活習慣病の患者に対しては栄養指導を行ったり、胃ろう(胃に穴をあけて栄養を補給すること)の方の栄養剤の選定を医師などを共に行ったりすることも管理栄養士の仕事です。一言で栄養管理といっても範囲が広いため、病院の管理栄養士には深い専門的な知識が求められます。
高齢者福祉施設では、栄養状態を改善するために介護士や看護師とともに入居者の栄養管理を行います。栄養指導というと肥満にアプローチするイメージが強いかもしれませんが、高齢者の多くは「肥満」よりも「低栄養」という問題を抱えているケースが多いので、病院ほど1つの分野に特化した栄養管理は行いませんが、施設の管理栄養士には幅広い知識が求められます。
管理栄養士には、その他にも保育園やスポーツジム、料理教室などの活躍の場がありますが、これらの事業者は国の制度である診療報酬・介護報酬のために管理栄養士を採用するわけではありません。管理栄養士の知識を使って働く、というイメージを持っておくと良いでしょう。
これから栄養士または管理栄養士を目指す方は、なんらかの事情がない限り、最初から管理栄養士を目指すのがおすすめ。栄養士にできて、管理栄養士にできない仕事はありません。管理栄養士は給食に専念することができますが、栄養士は栄養管理の分野には入り込めない現実があるためです…。
調理師は「美味しい」の専門家
給食の現場における調理師は「美味しい食事」の専門家です。栄養士も味を考えて給食管理を行いますが、より一層食事のクオリティを高めてくれる専門家が給食管理における調理師といえるでしょう。
調理師免許でできること
調理師も、栄養士や管理栄養士と同じ名称独占資格です。
調理師免許があれば、都道府県の講習を受けなくても飲食店を開業することができるため、活躍の場は給食の現場だけではありません。
給食における調理師
給食施設における調理師は、管理栄養士や栄養士の指示に従い、調理業務を行います。基本的に、調理師は献立作成や発注などは行わず、調理や仕込み、盛り付け、洗浄など、を行う現場が多いです。
管理栄養士や栄養士の指示に従い、給食の調理をする調理師、というのが教科書的な回答ですが、実際には「もっとこうしたら美味しいよ」というアドバイスをくれたり、「こういう盛り付けのほうが奇麗なんじゃない?」と提案してくれる調理師も多く、私たち管理栄養士にとって、欠かせないパートナーです。
調理師と栄養士ってバトルしてるイメージもあるかもしれませんけど、お互いの専門性を活かして助け合っている現場も多いんですよ!組織図上は管理栄養士がトップですけど、大事な相棒。
直営給食といって、施設や病院が自分たちで採用した職員で給食を運営している場合、調理師の働く現場は「施設や病院」。ですが、最近の厨房は給食会社に委託することが多いので、「調理師 求人 給食」などで検索をすると、給食会社の求人が出てくることがほとんどです。
飲食店など給食以外で働く調理師
私は管理栄養士なので、調理師といえば給食の調理師さんをイメージしますが、飲食店で働くシェフなども調理師です。
美味しい街の居酒屋さんから、一流ホテルまで、全て「飲食店」。
好待遇を求めて調理師になるのなら、給食よりも普通の飲食店のほうが儲かるでしょう。
また、給食の現場は決まりが多く、基本は管理栄養士や栄養士が決めた基準の中で仕事をするので、「作りたい料理」を極めたい人には飲食店がむいているでしょう。
最後に
管理栄養士、栄養士、調理師の違いを現場目線で解説しました。
栄養士は、非常に煩雑な給食管理を極めている専門家
管理栄養士は、給食管理だけでなく栄養管理まで行えるスペシャリスト
調理師は、給食の「おいしい」を支える専門家
この業界に身を置いている人以外は、あまり知らない人が多いと思います。
これから栄養士や管理栄養士を目指す学生さんの参考や、同じ施設で働いている栄養科にはどんな職種の人がいるの?ということに興味をもってくれた他職種の方に知ってもらえると嬉しいです。
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